702講義室
2026-07-11 09:12:00
赤ちゃんは、どのように世界を知るのだろう
第2部 脳科学・認知科学から考える現実とは何か
第2章 内部表現はどのように作られるのか
第1回 赤ちゃんは、どのように世界を知るのだろう
私たちは普段、目の前にある世界を当たり前のように理解しています。
机を見れば「机」だと分かります。
犬を見れば「犬」だと分かります。
家族や友人の顔も、一目で誰なのか判断できます。
しかし、生まれたばかりの赤ちゃんはどうでしょう。
赤ちゃんも私たちと同じように光を受け取り、音を聞き、肌で温かさを感じています。
それでも、大人と同じように世界を理解しているわけではありません。
では、赤ちゃんはどのようにして世界を知っていくのでしょうか。
昔は、「赤ちゃんは何も知らない状態で生まれてくる」と考えられていました。
しかし現在の発達心理学や認知科学では、それほど単純ではないことが分かってきています。
例えば、生まれて間もない赤ちゃんは、人の顔のような配置を好んで見る傾向があります。
また、お母さんの声を聞き分けたり、指を握ったり、お乳を吸ったりする、生まれつき備わった能力も持っています。
つまり、赤ちゃんは完全な白紙の状態ではありません。
世界を学ぶための土台を持って生まれてくると考えられています。
しかし、その土台だけでは世界を理解することはできません。
赤ちゃんは毎日、目で見て、耳で聞いて、触れて、泣いて、笑って、多くの経験を積み重ねていきます。
初めは区別できなかったものも、何度も同じ経験をすることで少しずつ違いが分かるようになります。
やがて、「これはお母さん」「これはミルク」「これはおもちゃ」と、一つひとつ世界を学んでいきます。
ここで大切なのは、赤ちゃんは単に知識を増やしているのではないということです。
経験を重ねるたびに、「世界とはこういうものだ」という理解そのものが育っていきます。
つまり、世界についての自分なりのモデルを少しずつ作り上げているのです。
前の章で紹介した「内部表現」とは、まさにこのように経験を通して育っていく世界のモデルだと考えることができます。
私たち大人は、机を見れば自然に机だと分かります。
しかし、それは机という言葉を知っているからだけではありません。
これまで何度も机を見て、触れ、使い、「机とはこういうものだ」という内部表現を作り上げてきたからです。
つまり、私たちは毎日、内部表現を通して世界を理解しているのです。
このように考えると、世界を知るということは、単に知識を増やすことではありません。
経験を積み重ね、自分の内部表現を少しずつ豊かにしていくことなのです。
そして、その内部表現は子どもの頃だけに作られるものではありません。
私たちは大人になってからも、新しい経験をするたびに、世界についての理解を少しずつ変え続けています。
内部表現は、一生を通して育ち続けるものなのです。
では、その内部表現は、経験するだけで自然に作られるのでしょうか。
それとも、人との関わりや「言葉」が大きな役割を果たしているのでしょうか。
次回は、「言葉はどのように世界を形作るのか」という視点から、内部表現が育っていく仕組みを考えてみたいと思います。
