芸術論講義室
2026-07-24 22:25:00
内部表現はなぜ簡単には変わらないのか
第2部 脳科学・認知科学から考える現実とは何か
第3章 内部表現はどのように変化するのか
第6回 内部表現はなぜ簡単には変わらないのか
はじめに
前回は、「内部表現は書き換えられるのか」というテーマについて考えました。
私たちは、新しい経験や知識によって、これまでの考え方や価値観が変化することがあります。
つまり、内部表現は決して固定されたものではなく、変化する可能性を持っています。
しかし一方で、私たちはもう一つの事実も日常的に経験しています。
「人はそう簡単には変われない」
という事実です。
もし内部表現が自由に書き換えられるのであれば、世の中に悩み続ける人も、同じ失敗を繰り返す人もいなくなるはずです。
では、なぜ内部表現は簡単には変わらないのでしょうか。
今回は、その理由を脳科学・認知科学の視点から考えてみます。
私たちの脳は「変わらないこと」を前提に作られている
脳は毎秒膨大な情報を処理しています。
もし目に映るもの、耳から入る音、周囲の状況に合わせて毎回内部表現を書き換えていたら、私たちは安定した生活を送ることができません。
昨日まで「危険」だと思っていたものを今日は「安全」と判断し、
今日は好きだったものを明日は嫌いになってしまう。
そのような状態では、社会生活は成り立たなくなります。
だからこそ脳は、
一度学習した内部表現をできるだけ維持しようとする性質
を持っています。
これは変化を拒んでいるのではありません。
安定した現実を維持するための重要な仕組みなのです。
内部表現は何度も繰り返されることで強化される
私たちの考え方や価値観は、一度の経験で作られるものではありません。
幼い頃からの経験、
家族との生活、
学校教育、
友人との関わり、
社会経験。
そのすべてが少しずつ積み重なり、
現在の内部表現を形成しています。
つまり現在の内部表現とは、
何十年もの時間をかけて作られてきた巨大なネットワーク
なのです。
だからこそ、一冊の本を読んだだけで人生が変わることはほとんどありません。
一度の出来事だけで価値観が完全に変化することも稀です。
内部表現は、それほど強固に構築されています。
新しい情報は、まず既存の内部表現で解釈される
興味深いことに、人は新しい情報を受け取ったとき、
その情報をそのまま受け入れているわけではありません。
まず、
現在持っている内部表現を通して解釈
しています。
例えば、同じ講演を聞いても、
「面白かった」
と感じる人もいれば、
「納得できなかった」
と感じる人もいます。
講演の内容は同じです。
違うのは、それを受け取る内部表現なのです。
つまり、新しい情報は常に既存の内部表現によって評価されます。
そのため、現在の内部表現と大きく矛盾する情報ほど、簡単には受け入れられません。
だからこそ、内部表現は少しずつ変化する
内部表現を書き換えることは、不可能ではありません。
しかし、それはスイッチを切り替えるような変化ではありません。
新しい経験。
新しい知識。
新しい出会い。
それらが積み重なり、
これまでの内部表現との間で何度も比較・検証が行われます。
そして、
「こちらの方が現実をうまく説明できる。」
と脳が判断したとき、
少しずつ内部表現は更新されていきます。
つまり、
内部表現は、長い時間をかけて形成され、長い時間をかけて変化していくのです。
おわりに
私たちは、
「人はなかなか変われない。」
という言葉をよく耳にします。
それは決して意志が弱いからではありません。
内部表現そのものが、長い年月をかけて形成され、安定した現実を維持するように働いているからです。
しかし、その一方で、
内部表現は決して固定されたものでもありません。
新しい経験や学びを積み重ねることで、少しずつ変化していきます。
そして、その小さな変化が積み重なった先に、
私たちが見ている現実そのものの変化が待っています。
次回は、
「内部表現が変わると、現実はどのように変わるのか」
というテーマについて考えていきます。
