702講義室
2026-07-26 19:40:00
私たちは何を経験しているのか
第2部 脳科学・認知科学から考える現実とは何か
第3章 内部表現はどのように変化するのか
第9回 私たちは何を経験しているのか
はじめに
前回まで、私たちは内部表現が大きく変化することで、現実そのものの見え方が変わる可能性について考えてきました。
しかし、その前に確認しておきたいことがあります。
そもそも、私たちは「世界」をどのように認識しているのでしょうか。
私たちは、外界をそのまま見ているのでしょうか。
それとも、脳が何らかの処理を行った結果を見ているのでしょうか。
今回は、この問いについて、認知科学と脳科学の視点から考えてみます。
外界から情報を受け取る
私たちの周りには、光や音、温度、匂い、圧力など、さまざまな物理的刺激が存在しています。
しかし、私たちはそれらを、そのまま経験しているわけではありません。
例えば、目が受け取るのは可視光線です。
人間が見ることのできる光は、およそ380〜780ナノメートルの波長を持つ電磁波とされています。
物体に当たって反射した光は、網膜で電気信号へ変換され、脳へ送られます。
耳では空気の振動が電気信号へ変換されます。
皮膚では圧力や温度が、舌では味覚が、鼻では匂いが、それぞれ電気信号となって脳へ送られます。
つまり、人間が直接受け取っているのは、外界そのものではなく、感覚器官によって電気信号へ変換された情報なのです。
脳は世界を表現する
ここで、一つ身近な例を考えてみましょう。
携帯電話には、空間を飛び交う電波が届きます。
しかし、私たちはその電波を直接見ることも、聞くこともできません。
携帯電話は受信した電波を内部で処理し、着信音や音声へ変換します。
着信音はベルにすることもできます。
好きな音楽にすることもできます。
つまり、私たちが聞いている着信音は、飛んできた電波そのものではありません。
携帯電話が、人間に理解できる表現へ変換した結果なのです。
人間の脳も、これとよく似た働きをしています。
目から送られてきた電気信号。
耳から送られてきた電気信号。
皮膚や鼻、舌から送られてきた電気信号。
脳は、それらの電気信号を、そのまま理解しているわけではありません。
脳独自の情報処理によって、「色」や「形」、「音」、「温度」、「匂い」、「味」といった、人間が認識できる表現へ変換しています。
そして、それらの表現を統合することで、一つの世界として経験しているのです。
私たちは何を経験しているのか
ここまで見てきたように、私たちが経験している世界は、外界そのものではありません。
外界から得られた刺激は、まず感覚器官によって電気信号へ変換されます。
次に、その電気信号は脳の情報処理によって、「色」や「形」、「音」、「温度」、「匂い」、「味」といった、人間が理解できる表現へ変換されます。
そして、それらの表現が統合され、一つの世界として再構成されます。
つまり、
私たちは外界そのものを経験しているのではなく、脳が再構成した世界を経験しているのです。
これは、認知科学や脳科学の研究からも示されている、人間の知覚の基本的な仕組みです。
おわりに
私たちは普段、自分が見ている世界を、そのまま現実だと考えています。
しかし、実際に経験しているのは、外界そのものではなく、脳が再構成した世界です。
では、その再構成された世界は、すべての人にとって同じなのでしょうか。
同じ景色を見ても、人によって感じ方や価値観が異なるのはなぜでしょうか。
次回は、この問いについて考えていきます。
脳が再構成した世界に、意味や価値を与えているものは何なのか。
そこから、私たちが経験する「現実」の正体へ、さらに踏み込んでいきたいと思います。
