芸術論講義室
2026-07-29 09:09:00
なぜ人によって現実は違うのか
第2部 脳科学・認知科学から考える現実とは何か
第3章 内部表現はどのように変化するのか
第10回 なぜ人によって現実は違うのか
はじめに
前回、私たちは外界そのものを経験しているのではなく、脳が再構成した世界を経験していることを見てきました。
ここまでは、認知科学や脳科学によって説明されている、人間の知覚の基本的な仕組みです。
しかし、ここで一つの疑問が生まれます。
もし私たちが同じような仕組みで世界を認識しているのであれば、なぜ人によって現実は違って見えるのでしょうか。
同じ景色を見ても、美しいと感じる人もいれば、何も感じない人もいます。
同じ出来事を経験しても、喜ぶ人もいれば、悲しむ人もいます。
もし脳が世界を再構成しているだけなら、この違いはどこから生まれるのでしょうか。
今回は、この問いについて考えてみます。
世界には、まだ意味はない
私たちは普段、「犬」を見れば犬だと思います。
「花」を見れば花だと思います。
しかし、本当に脳へ送られている情報の中に、「犬」や「花」という意味が含まれているのでしょうか。
答えは違います。
目から送られてくるのは電気信号です。
そこには「犬」という文字も、「かわいい」という意味もありません。
あるのは、色や明るさ、輪郭、動きなどの情報だけです。
耳から届くのも、空気の振動が変換された電気信号です。
鼻や舌、皮膚から届く情報も同じです。
つまり、脳へ届く時点では、世界はまだ「意味」を持っていないのです。
脳は何を結び付けているのか
では、なぜ私たちは、それを「犬」だと分かるのでしょうか。
それは、脳がそれぞれの特徴を一つの対象として結び付けているからです。
四本の足。
茶色い毛。
しっぽ。
鳴き声。
走り方。
それぞれは別々の情報ですが、脳はそれらを一つの存在としてまとめます。
そして、そのまとまりに「犬」という概念を結び付けます。
つまり、私たちが認識しているのは、単なる形や色ではありません。
脳が特徴を結び付け、一つの概念として整理した結果なのです。
同じ犬でも現実は違う
しかし、それでもまだ説明できないことがあります。
犬を見ると、
「かわいい。」
と思う人もいます。
「怖い。」
と思う人もいます。
「昔飼っていた犬を思い出す。」
という人もいます。
「子どものころに噛まれた。」
という人もいます。
見ている犬は同じです。
脳が再構成した世界も、大きくは同じでしょう。
それでも、経験する現実は違います。
では、この違いはどこから生まれるのでしょうか。
おわりに
私たちは、外界から得られた情報を脳が再構成した世界を経験しています。
そして脳は、その世界のさまざまな特徴を結び付け、一つの概念として整理しています。
しかし、それだけでは説明できないことがあります。
なぜ、同じ世界を見ても、人によって現実は違って見えるのでしょうか。
この問いの答えを探るために、次回はいよいよ**「内部表現」**という考え方について見ていきます。
