芸術論講義室
2026-08-10 08:53:00
意識されない情報をデザインに組み込むことはできるのだろうか
第3部 芸術論
第1章 なぜ、人は一枚の絵の前で立ち止まったのだろう
第4回 意識されない情報をデザインに組み込むことはできるのだろうか
はじめに
前回、「図と地」や「多義図形」の事例から、私たちの目に入っている情報のすべてが、同じように意識されているわけではないことを見てきました。
では、この人間の認識の性質を、意図的にデザインへ利用することはできるのでしょうか。
その分かりやすい例の一つが、FedExのロゴです。
FedExのロゴを普通に見ると、まず「FedEx」という文字が目に入ります。
しかし、「E」と「x」の間をよく見てみると、そこには右向きの矢印が現れます。
この矢印は、線で直接描かれているわけではありません。
「E」と「x」の間に生まれる余白、いわゆるネガティブスペースによって形作られています。
そのため、矢印の存在を知らずにロゴを見ていると、それに気づかないことがあります。
しかし、一度その存在を知ってしまうと、今度ははっきりと矢印が見えてきます。
ここで重要なのは、
矢印は、最初からそこにあった
ということです。
あとから描き加えられたわけではありません。
私たちの目にも入っていました。
それでも、意識して認識していなかったのです。
これは、前回取り上げた「図と地」の関係ともよく似ています。
文字を「図」として認識しているとき、その間にある余白は「地」として扱われます。
しかし、その余白そのものに意味を持たせることで、もう一つの情報をデザインの中へ組み込むことができます。
FedExの矢印は、前進、方向、スピードといったイメージを連想させます。
つまり、意識して矢印を探していない鑑賞者に対しても、「FedEx」という文字とは別の意味を持った視覚情報が、同じロゴの中に存在していることになります。
このようなデザインは、FedExだけではありません。
例えば、Tobleroneの旧ロゴでは、山のシルエットの中にクマの姿が組み込まれていました。
クマは、Toblerone発祥の地であるスイス・ベルンを象徴する存在です。
最初に目に入るのは山です。
しかし、よく見ると、その中に別の意味を持った情報が存在していることに気づきます。
ここまで見てくると、前回取り上げた「図と地」や「多義図形」が、単なる錯視の面白い事例ではないことが分かります。
人間は、目に入ったすべての情報を同じように意識しているわけではありません。
そして、その性質を利用すれば、
意図された意味を持つ情報を、意識されにくい形でデザインの中へ組み込むことができます。
前回は、
見えている。しかし、意識されていない。
という現象を見ました。
今回は、そこから一歩進んで、
見えている。しかし、意識されにくい情報を、意図してそこに置くことができる。
という事例を見てきました。
同じ画面の中に、意識して認識される情報と、意識されにくい情報を同時に存在させる。
それもまた、デザインによって可能になる表現の一つなのです。


